治療情報

大腿骨頭壊死症:成長因子(FGF-2)を用いた再生医療の科学的根拠

大腿骨頭壊死症:成長因子(FGF-2)を用いた再生医療の科学的根拠

今回は、われわれの提供している再生医療で使用している成長因子(FGF-2)についてのお話です。聞きなれない名前だと思いますが、できるだけわかりやすく説明します。

1. 骨再生を促すFGF-2のメカニズム

FGF-2は、私たちの体にある「塩基性線維芽細胞増殖因子」というタンパク質です。この物質は、新しい血管をつくったり、骨をつくる細胞の元になる「未分化間葉系細胞」の数を増やしたりする働きがあります。

2. 京都大学整形外科での研究

セルファクターCTO黒田ら京都大学整形外科の研究グループは、難病である特発性大腿骨頭壊死症に対し、FGF-2を含んだゼラチンゲルを壊死した骨に投与するヒトでは世界初となる臨床試験を10名の患者さんに行い、9名の患者さんで骨再生を認め、良好な結果を報告しています。(出典:京都大学最新の研究成果を知る 2016年2月2日)(Int Orthop)この治療法は、壊死した骨の内部にFGF-2を直接届けることで、骨の再生を促し、骨頭が潰れるのを防ぐことを目的としています。その後に4つの大学(東京大学、京都大学、大阪大学、岐阜大学)で64名の患者さんにFGF-2を用いた医師主導治験が行われました。結果は未治療の患者さんの過去データと比較して、病気の進行が統計学的に優位に抑制され、FGF-2を用いた再生医療の安全性と有効性を示すものでした。(Regen Med

3.歯周病治療での実用化事例

FGF-2の骨再生効果は、すでに歯周病の治療薬としても実用化されています。日本で承認されている歯周組織再生剤は、FGF-2を主成分としています。この薬は、歯周病で失われた歯周組織(骨など)の再生を促す目的で使われています。この治療が日本で世界初の歯周組織再生剤として製造販売承認されたことは、FGF-2が人体において骨再生を促す効果が科学的に認められたことを示す、重要な実績と言えます。

4. 動物実験で確認された骨形成効果

黒田らの京都大学整形外科での基礎研究で大腿骨頭壊死症のウサギの動物モデルにおいても、FGF-2の骨形成の効果が示されています。(出典:京都大学学術情報リポジトリKURENAI 紅)、(J Bone Miner Metab

東京大学の研究でも、FGF-2の骨形成効果は確認されています。例えば、ラットにFGF-2を投与した研究では、骨髄内の未分化間葉系細胞の増殖と、それが骨をつくる細胞(骨芽細胞)に分化することが促進され、骨の形成が誘導されることが明らかになっています(出典:東京大学大学院 博士論文「FGF-2の骨形成に及ぼす影響に関する実験病理学的研究」)。

まとめ

大腿骨頭壊死症に対するFGF-2を用いた再生医療は、単なる新しい試みではなく、その効果が様々な研究や、歯周病治療薬としての実用化によって科学的に裏付けられています。

  • 骨の「修復工事」を助ける成長因子である:FGF-2は、血管や骨をつくる細胞を増やし、活性化させる働きがあります。
  • 臨床研究で良好な結果が報告されている:大腿骨頭壊死症に対する臨床試験で、骨頭の潰れを防ぐ効果が示されています。
  • 他の治療分野でも効果が認められている:歯周病の治療薬として、FGF-2が骨の再生を促す効果がすでに実用化されています。

この治療は、患者さんご自身の骨を温存できる可能性を秘めており、特に病気の早期の段階で検討する価値のある治療法です。ご自身の病状と合わせて、この治療法が適しているか、ぜひ一緒に考えていきましょう。ご不明な点があれば、何でもご質問ください。